幕間 <一>

 気がつくと、夜の神社の境内にいた。

 辺りは人でごった返している。
 外には長い行列が伸びている。
 背中が熱いと思ったら、篝火が炊かれていて、その周りにも人がたくさんいた。
 おみくじの結果に一喜一憂している人、紙コップを持ってぼんやり暖を取る人…様々な人が入り乱れる。

 家族や友達とあれこれ話す人たちをぼんやりと眺めながら、わたしはどこまでもひとりだった。
 先程までは家で、大晦日のテレビ番組をザッピングしながら、コンビニエンスストアで買ってきたアルミ容器に入った蕎麦を口に運んでいた。
 十二月に入ってからというもの、どこもかしこも浮かれている。
 月が変わった途端に街はイルミネーションに彩られ、クリスマスムードだった。
 二十五日が終わるとあっという間に街の様子は様変わりし、そして翌年に向けて走り始める。

 わたしはどうにも年末年始が苦手だった。
 変わらずに静かに毎日を消化していたいのに、慌ただしい中に放り出される感じがして、世の中についていけない自分が苦しいからだ。
 なのに、どうして私はこんなに人の多いところに来てしまったんだろう……

 蕎麦を食べ終わった後も、ぼんやりとこたつに入ってテレビをつけっぱなしにしていた。
 そうこうしているうちに、どのチャンネルも慌ただしくカウントダウンを始め、そして年が明けたのだった。
 起きている理由もないしもう寝ようと思ってテレビの電源をオフにしたら、どこからともなく除夜の鐘の音が響いてきた。
 その音色はどこまでも私の心を落ち着かせ、癒してくれた。
 お祭り騒ぎはもうお腹がいっぱいだ。

 その鐘の音に導かれるように、わたしは手近にあったコートを羽織って外に出たのだった。

 静かに鐘の音を聞いて居たかったのだ。
 しかし、その音が近づくにつれ、正直私は後悔していた。
 喧騒から逃れたくて、テレビを切った。そして、低く響き渡る鐘の音を聞いた。

 なのに、出てきた先は人でごった返していたのだ。
 初詣しようにも、外まで続く長い長い行列。
 並ぶ気にもなれず、ぼんやり境内まで歩いてきていた。

 篝火が勢い良く燃えている。
 温度が高いのだろう、火の根本は時々青い炎が見える。
 燃えた紙片は時折大きな塊のまま赤く舞い上がり…煤になって再び地上へと降ってくる。  どれくらい眺めていただろうか…。炎の動きはいつまで見ていても飽きることはない。

 ふと正気づいて辺りを見回すが、やはり喧騒に包まれている。唯一救いだと思われることと言えば、周囲の人達が皆どこか神聖な面持ちでいるところだろうか。
 到着してから数十分は経過しているはずだが、相変わらず初詣の行列は外に長く伸びている様子だ。
 もう諦めて家に帰って寝ようと思い、来た道を引き返すことにした。

 神社から家までは歩いて十分ほどの道のりだ。そこそこ田舎なので住宅街や市街地以外の場所は田畑に囲まれている。
 歩いていると、小さな子供を連れた親子とすれ違う。周囲を見回すと、初詣に向かう人、そしてお参りを終えて家路に向かう人がぱらぱらと歩いている。
 十代半ばくらいの年齢で一人で歩いている人は、わたしの他には見かけない。
 でも、年が明けて間もないこのタイミングならば、一人で神社から家に歩いていても、誰にも補導される心配はないので平和だと思った。

 家に向かう道すがら、どこにいても人の気配がした。普段だったらこの時間はもっともっと静かなのに、この街にもこんなに人が居たのだなと改めて思わされる。
 近道である農道に入り家路を急ぐ。街頭も少なく、目の悪いわたしでも空を見上げると星空が先程よりも綺麗に見えた。

 北斗七星が目に入った。
 柄杓の先端、ドゥーベとメラクを繋いで、それを五倍する。
 北極星を確認。

 わたしは、北へとさらに歩みを進める。