猫舌男爵

発売元: 講談社
発売日: 2004/03

皆川博子さんの短篇集。図書館で借りてきました。

水葬楽

世界は戦後何年経っているのかわからないが、敗戦国。
女性の一人称で語られる不思議な世界。
この国の平均寿命はすでに29歳となっており、死は突然訪れるのではなく、衰弱したところで容器に入れられゆっくり死んだら溶かされる。
主人公と兄はいつも一緒にいるのでなにかと思ったら結合双生児だった。
切り離され、『弱い方』と見なされ排泄口から下半身半分を失いひとりで生きる主人公がなんとも言えず悲しい。

猫舌男爵

表題作。
表紙も絵本のようだしどんなかなと読み始めたら、本編は出てこず、日本語の分からない外国人が翻訳したという事実と関係した人間の手紙だけで構成されてた。
猫舌を拷問だと想像したり、沼太夫を『ヌマフトシオット』、鶴屋南北綺譚を『ツルヤミナミキタキタン』と読み違えた挙句『鶴が飛来した!』と訳すなどとぼけてて面白い。
そして、この人の日本語講師は訳の間違いを指摘するよりも、講師が吉原に行ったことがあると本に書かれたおかげで妻と不仲になったとひたすら愚痴をこぼす。
どいつもこいつもとんちんかんで面白い。

オムレツ少年の儀式

舞台はプラハ。
国境の田舎で生まれ育った息子と夫を急に亡くした妻は、生前夫が話していた都会へ。
ヨーロッパが舞台の読み慣れた話。
であるが、やはり悲しい。

睡蓮

救われない生涯を遂げた女性画家。
時間を遡る形で家族や、師匠であり愛人でもあったジークムントとの手紙のやり取りや、周囲の人間の日記などで綴られる。
本当に報われないと思うし、ジークムントという人間は最低で許せないとも思った。
とにかく途中で読むのをやめることが出来ず最後まで読み切る。辛かった…。

太陽馬

突然、朕は…≪睡る沼≫…陰に3筋の弦を…と始まったのでわけが分からずに混乱。
読んでいくとそれは作中劇で、実際はロシア革命やらを舞台にした話でありました。非常に血生臭い、そして糞尿臭い作品で、でもとてもよい歴史の勉強になりました。