桜庭一樹短編集

発売元: 文藝春秋
価格: ¥ 1,365
発売日: 2013/06/13

 ずっと待っていた、桜庭一樹さんの短篇集が出ました。
 私はこの方の本に出会っていなかったら、今でもラノベだけをほんの少し読む人だったと思うのです。
 一般文芸を読むようになったおかげで、すごく世界が広がった感じがします。

 とはいえ、小説誌を買って読むほどではなく、後に単行本化もしくは文庫化された時に気になったものを買うだけなので、短編はほとんど読めず、何年も短篇集の発売を待っていたのです。

 発売して嬉しくて、楽しみすぎてそーっと少しずつ読んでいました。
 全部で6本の短編~中編が収録されています。

■このたびはとんだことで■
 妻、千代子と自分の不倫相手、艶子のやりとりを男性視点で俯瞰見ている作品。
 「お茶いただけます?」からのくだりが、まるでドリフのコントを見ているようで面白い。でもブラック。

■青年のための推理クラブ■
 『青年のための読書クラブ』のパイロット版らしい。
 読んですぐ『あれ?この推理簡単だな』とか思ってると結末にやられる。GOSICKのアニメが放映された時、初めて作品に触れた人が『推理がしょぼい』という感想を述べてたことがあるが、あれもこれも同じように、一見推理モノと見せかけて実は違う深い何かがあるという感じがする作品。

■モコ&猫■
 大学で出会ったモコは色が黒くてごま油の瓶みたいに脂ぎっていて、洋服のコーディネートの中にアンバランスに女の子の何かが入っている。
 すごく気持ちの悪い性愛なんだけれど、なんだか可愛げがあって、ちょっとリアルでいいなぁと思った。

■五月雨■
 山の上ホテルで働くホテルマンと、そこに長逗留している作家ふたり。
 鹿鳴館の雰囲気を醸し出しているような舞台で、何が起こるのかと思えばびっくりファンタジー。
 あまりにびっくりしすぎてあっという間に終わった。

■冬の牡丹■
 都会の古いアパートで一人暮らしする30代女性、牡丹と、その隣人の老人のお話。
 競争社会から置いていかれて好きに暮らすことへの疑問、その周囲の人。
 耳が痛いながらも、やたらと共感できてしまった。一番好き。

■赤い犬花■
 小学生の男の子が主人公。ちょっと珍しいな?と思いました。
 『ぼくのなつやすみ』みたいに都会っ子が夏休みに田舎にやってきて冒険する話。
 でも、起こった出来事は大人向けで苦い。
 表紙は、有名な日本人画家さんの作品らしいが、ユキノをイメージしてこの表紙になったのかなぁ?と読み終わってから考えた。

 6編、ほぼ発表順に掲載されており、わりと古い桜庭さんの作品から発売日付近に買って読んでいる身としては、今までがぎゅーっと濃縮されて、今に戻ってくるような幸せな感覚。
 今まで桜庭一樹さんの作品を読んだことがない方にもおすすめしたいと思った。

 早く新作が読みたいなぁ…。